持丸のファンタジー映画感想

基本ネタバレなしのあらすじと感想で構成されています。ファンタジー映画である限りどんなC級であろうと見なければならない呪いにかかっています。記事の頭に画像があるのはリンクで飛べます。

ファンタジー映画感想135 ナルニア国物語/第2章:カスピアン王子の角笛

ナルニア国物語/第2章:カスピアン王子の角笛 (吹替版)

2008年アメリカ。ナルニア国物語映画シリーズの第二弾ですね。ナルニア国物語には年代順(ナルニアの歴史順)の並べ方と刊行順がありますが映画はこの刊行順に出ていました。この映画、ナルニアシリーズでは私は一番好きです。

 

あらすじ

ナルニアテルマール人に征服され数百年。王子カスピアンは摂政のミラースに命を狙われ、ナルニア人のところへ逃げる。カスピアンの角笛に呼び出されたのはピーターら四人兄弟。ミラースはナルニア人を根絶やしにしようとしピーターとカスピアンに率いられたナルニアは戦いを挑む。

 

感想

原作とはかなり展開、キャラクター等違うんですけれどこれは改悪ではなく改良だと思います。少なくとも映画に知るには仕方ない。 そもそも原作が子供向けなんですよね。まぁ映画も子供向けなんですけどもう少し上の年齢まで見れるように作ってある。且つ原作も昔のものなので展開がゆっくりなんです。そのまま丸っと映画に移してしまうと緊張もフックも冒頭にないので映画を見にきた2008年の観客が飽きてしまう。

シナリオを習っていた時にプロデューサーの方に言われたんですけど映画って10分に一回は小さなクライマックスがないとお客が飽きちゃうんだそうです。なので原作通りに四人兄弟が学校へ行こうとしている平和なシーンで始めてしまうと、まぁ魔法はあるのでフックではあるんですが、刺激になれた観客には少々フックが弱い。そこで出産、暗殺の命令、王子の逃亡、現実世界にはいないドワーフや物言うアナグマとの出会いとたたみかけるわけです。上手いし緊張が高まるし移動の過程で景色も見せることができて「映画で別世界に行きたいな〜」という観客を満足させられます。

そして現代(物語の中の現代ですね。大戦の頃です)にジャンプし、ピーターらが学校へ行こうとしているところへ。ピーターが中心ですが彼らはかつてナルニアで大人になるまでの時間を過ごして、それから戻っているので、また無力な子供になって戸惑ったり苛立ったりしているんですね。ピーターは特に一の王から学生へ戻ったことで憤っている。それでバカみたいな喧嘩をしたりしているわけですが、ここはこの後のカスピアンとの軋轢の伏線ですね。同時に四人兄弟の前作からの人間関係の変化を見せます。

前作、エドマンドはピーターが父親ヅラをして仕切ることに反発し、それもあって白い魔女に味方してしまうのですが、今回はピーターが全面に正しいとは思っていないものの味方です。心酔してはいないので意見はきちんと言いますし、彼いい子になりました。ルーシーは相変わらずナルニアの天使です。スーザンはちょっと綺麗になりました。そしてこれくらいの年齢になると恋愛絡みでちょっと面倒な気持ちを味わったりしますがそれがでてきます。

角笛で呼ばれてナルニアに移動、殺されそうなトランプキンを助けるあたりは原作通り。この後地形の変化、アスランがルーシーにしか見えず他の兄弟がそれを信じないとかは原作通りですね、ほぼ。カスピアンとナルニア人との会合も大体原作と同じで原作でかなりページを割いていたナルニア人たち個別の紹介とかを省いています。バッカスの神らへんの話は映画を通じて総カットですがこれは正しいと思います。原作ではある種スタイルになっているんですが、一方で突然バッカスらがどの理に従っているのかもわからずでてきてチートしたりするとみんなが混乱するのでこれはカットしたほうがいい。LOTRのトム・ボンバディルカットと同じです。好きだし原作では魅力の一つなんですけど映画に入れると混乱を来すので致し方ないです。

ピーターとカスピアンの二人の王がいるせいでややこしくなってる感じは映画オリジナル。原作では二人とも礼儀正しく仲良しですが、それでは現代の話では面白くないので。歳も近くておまけに若くてお互い王たる自覚があるのでリーダーシップの取り合いになるのが自然です。ピーターは統治した記憶と自信があるけれどここ数百年のことは知らないし、カスピアンは今のナルニアのことや敵のことはよくわかっているけれど王子であって王として君臨したことはない。いいライバルなんですよ。

最初の敵のお城に忍び込む奇襲作戦、これは完全映画オリジナルです。うまくいかなかったんですけど途中まではワクワクしましたね。エドマンドの懐中電灯大活躍!あれは原作にも出てきますがこれほどの活躍はしません。猫ちゃんが縛られてるものリーピチープっぽくて可愛かったですね。 ただ結末は悲惨でした。逃げられなかったナルニア人たちがどんな風に殺されたかと思うと辛くてたまらない。

妙に怖いフード被った「俺は渇きだ、俺は飢えだ」の人と鳥みたいな顔をした女が白い魔女を呼び出すシーンは原作にもありますけど緊張感は映画の方が高いですね。原作では呼び出す前に終わってしまいますけれど。ここでニカブリクが死ぬのも原作と同じ。ナルニアって基本児童書らしいんですがたまにゾッとするほど怖いシーン(さいごの戦いで死んだライオンの皮を被って偽アスランになるところとか)あるんですがこれも底無しに怖いシーンの一つ。でもこれで漸くピーターとカスピアンが協力してくれます。

ピーターとミラースのシングルコンバットも原作にありますね。ソペスピアン卿が殺すのも同じです。グロゼールは映画では将軍になってますが、原作では貴族の一人でソペスピアンとほぼ同じ扱い。原作のソペスピアンはミラース殺した直後にピーターに首を刎ねられてますけど。ソペスピアンもグロゼールも映画の方がはるかにおいしい役でした。あの敵サイドにも思惑がある感じ、この映画に深みを与える上で役に立っていたと思います。川の神みたいな人が出てきたのも原作と同じですね。ソペスピアンの死に方美味しかった。グロゼールはただ職務に忠実な男からミラースの残酷さに段々ミラースを憎むようになり彼を陥れようとし、最後はミラースの妻と子供とともにテルマール人の故郷へ行く、あたり気持ちの変化も描いていてよかったです。美味しい役ですよ。テルマール人ってスペイン訛りなんですよね。みんな黒髪だし。いい味付けだとは思いますけども。

スーザンとカスピアンの淡い恋は映画オリジナルですが、これも良かったと思います。リーピチープのしっぽの下りも原作通り。

私がファンタジーを好きな理由って、ファンタジーならではの戦い方を含む戦争シーンが好きっていうのも一つなんです。歴史物だとどうしても悲惨さが勝ってしまうんですけどファンタジーだと魔法使ったりグリフィンが出てきたり巨人が出てきたりとわくわく感の方が強くて純粋に楽しめる。もちろん死者が出ると辛いんですけど、戦争シーンの工夫に血湧き肉踊っちゃうんですよ。この映画は城攻め、王の一騎討ち、平原での大規模戦争と三つ大興奮の戦闘シーンがあるので多分お気に入りなのかも。それでいてどこも焦ったり端折った感じがないんですよ。良い作品だと思います。お気に入り。